大学数学の参考書で双曲線関数という
関数が登場します。
\(\sinh ,\cosh ,\tanh\)という三角関数のような記号を
使って表します。。
定義を見ると\(e^xとe^{-x}\)の式です。
この関数を見ると大きな疑問が浮かびます。
なぜ三角関数のような記号を割り当てているのか?
なぜ双曲線関数という名前を付けたのか?
そのような疑問に答えるため
この記事では双曲線関数の
特徴や性質、公式をまとめています。
ご覧いただく前のご注意点
基本公式や性質
定義
【新着動画】「双曲線関数とは何か」大学数学で突如現れる双曲線関数を基本から解説。『ハイパボリックサインシータ』、言うだけで頭が良くなった気がします
— ヨビノリたくみ😬 (@Yobinori) October 14, 2017
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双曲線関数を次のように定義します。
$$\cosh x =\frac{e^x + e^{-x}}{2}$$
$$\tanh x =\frac{e^x – e^{-x}}{e^x + e^{-x}}$$
三角関数みたいね
読み方
それぞれ
- ハイパボリックサイン\(\sinh \)
- ハイパボリックコサイン\(\cosh \)
- ハイパボリックタンジェント\(\tanh \)
と読みます。
ハイパボリックhyperbolicとは日本語で「双曲線」のことを言います。
なぜ、双曲線と名付けたのか?
なぜ、三角関数のような記号を割り当てたのか?
この疑問に答えていきます。
基本公式
三角関数のような記号を使う理由
見ての通り三角関数の表記にhを付け足しただけです。
それは三角関数に似ている性質があるからです。
\(\sin,\cos,\tan \)の公式と
\(\sinh,\cosh,\tanh \)の公式が
とても似ています。
三角関数と類似する最重要公式
まずは定義から次の式が成り立ちます。
\(\displaystyle\tan x = \frac{\sin x}{\cos x} \)という式と類似しています。
\(\cos^2 x + \sin^2 x=1\)という
三角関数でよく使われる公式が
双曲線関数ではこのようになります。
$$\cosh^2 x – \sinh^2 x =1 $$
(証明)
$$\cosh^2 x = (\frac{e^x+e^{-x}}{2})^2\
=\frac{e^2x +2+ e^{-2}}{4}$$$$\sinh^2 x = (\frac{e^x-e^{-x}}{2})^2\
=\frac{e^2x -2+ e^{-2}}{4}$$よって
$$\cosh^2 x – \sinh^2 x\
=\frac{e^2x +2+ e^{-2}}{4} – \frac{e^2x -2+ e^{-2}}{4}\
=1$$<
両辺を\( \cosh x \)で割ると次のようになります。
$$1 – \tanh^2 x =\frac{1}{\cosh^2 x} $$
これも三角関数の
\(\displaystyle 1+\tan^2 x =\frac{1}{\cos^2 x} \)という式と
類似しています。
三角関数と並列に扱えそうだね。
いろいろと都合が良さそうなのが分かる。
この他にも微分や加法定理など
三角関数と類似している性質が多くあります。
注意する点は符号が異なる点です。
混同しないように注意が必要です。
双曲線関数と呼ばれる理由
\(\cosh^2 x – \sinh^2 x =1 \)この公式が
\(x^2 -y^2 =1\)という双曲線の式と
同じ形になることから、
そのように名付けられたと推測されます。
\((x,y)=(\cosh \theta , \sinh \theta )\)という
媒介変数表示が可能です。
ちなみに三角関数の場合は
\((x,y)=(\cos \theta , \sin \theta )\)と置くことで
\(\cos^2 x + \sin^2 x =1\)という式が成り立ちます。
双曲線関数の微分
微分すると次のようになります。
$$(\cosh x)’ = \sinh x$$
$$(\tanh x)’ = \frac{1}{\cosh^2 x}$$
$$\begin{align}
(\sinh x)’ &= (\frac{e^x – e^{-x}}{2})’\\
&=\frac{e^x + e^{-x}}{2}\\
&=\cosh x
\end{align}
$$
$$(\cosh x)’ = (\frac{e^x + e^{-x}}{2})’\\
=\frac{e^x – e^{-x}}{2}\\
=\sinh x$$$$(\tanh x)’ = (\frac{\sinh x}{\cosh x})’\\
=\frac{\cosh^2 x – \sinh^2 x}{\cosh^2 x}\\
=\frac{1}{\cosh^2 x}$$
これも三角関数の微分と似ています。
$$(\sin x)’ = \cos x\\
(\cos x)’ = -\sin x\\
(\tan x)’ = \frac{1}{\cos^2 x}$$
ただし\(\cosh\)の微分だけ符号が異なります。
双曲線関数の積分
三角関数の微分とほぼ一緒です。
$$\int \cosh x dx = \sinh x +C$$
$$\int \tanh x dx = \ln|\cosh x| +C$$
加法定理
\sinh(x-y) = \sinh x \cosh y – \cosh x \sinh y\\
\cosh (x+y)=\cosh x\cosh y+\sinh x\sinh y\\
\cosh (x+y)=\cosh x\cosh y-\sinh x\sinh y\\
\tanh (x+y)=\frac{\tanh x+\tanh y}{1+\tanh x\tanh y}\\
\tanh (x-y)=\frac{\tanh x-\tanh y}{1-\tanh x\tanh y}$$
これも三角関数の加法定理とほぼ同じ。
ただしcoshの符号だけ注意。
グラフ
グラフは下記のようになります。
- \(\sinh x\):緑
- \(\cosh x\):青
- \(\tanh x\):赤
懸垂線
\(\cosh \)は日常生活でも見られる曲線です。
両端にロープをもって垂らすと
このような曲線になることが知られています。
この曲線の名前を「懸垂線」といいます。
他にも電線やネックレスがたるんだ時の曲線の形も
この懸垂線となります。
こんな複雑な関数で表現されていたんだね
テイラー展開
\(x=0\)で多項式近似をすると
\begin{align}
&\cosh x=1+\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{4}}{4!}+\frac{x^{6}}{6!}+\cdots \\
&\sinh x=x+\frac{x^{3}}{3!}+\frac{x^{5}}{5!}+\frac{x^{7}}{7!}+\cdots \\
&\tanh x=x-\frac{x^{3}}{3}+\frac{2}{15}x^{5}-\frac{17}{315}x^{7}+\cdots
\end{align}
$$
双曲線関数を虚数範囲に拡張すると三角関数に変換される
双曲線関数に虚数を代入すると次の式が成り立ちます。
\cosh i\theta = \cos \theta$$
こちらのオイラーの公式より
$$e^{i\theta}= \cos \theta +i \sin \theta\\
e^{-i\theta}= \cos \theta -i \sin \theta$$この二式から次が成り立ちます。$$\sin \theta= \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i} = \frac{1}{i}\sinh i\theta$$
$$\cos \theta= \frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2} = \cosh i\theta$$
つまり、双曲線関数に虚数を代入したものが三角関数になります。
また、三角関数に虚数を代入した場合を考えます。
\cos i\theta= \cosh \theta$$
$$\sin i\theta= \frac{1}{i} \sinh (i\cdot i\theta)\\
= -i\sinh (-\theta) = i\sinh \theta \\
\cos i\theta= \cosh (i\cdot i\theta) \\
= \cosh (-\theta) = \cosh \theta$$
三角関数に虚数を代入した値が
双曲線関数に実数を代入した値に対応しています。
複素数に範囲を広げる
双曲線関数に複素数を代入する場合を考えてみます。
複素数\(x + iy\)のときに次の式が成り立ちます。
\sinh (x-iy) = \frac{e^{x-iy}-e^{-x+iy}}{2} = \sinh x \cos y – i \cosh x \sin y\\
\cosh (x+iy)= \frac{e^{x+iy}+e^{-x-iy}}{2} = \cosh x\cos y + i \sinh x \sin y\\
\cosh (x-iy)= \frac{e^{x-iy}+e^{-x+iy}}{2} = \cosh x\cos y – i \sinh x \sin y\\
\tanh(x+iy)= \frac{\tanh x + i\tan y}{1+i\tanh x \tan y}\\
\tanh(x-iy)=\frac{\tanh x – i\tan y}{1-i\tanh x \tan y}$$
$$\sinh (x+iy) = \frac{e^{x+iy}-e^{-x-iy}}{2} \\
=\frac{e^x e^{iy} -e^{-x}e^{-iy}}{2}\\
=\frac{e^x (\cos y + i \sin y)-e^{-x}(\cos y -i \sin y)}{2}\\
=\frac{(e^x -e^{-x})\cos y +i(e^x +e^{-x})\sin y}{2}\\
=\frac{e^x -e^{-x}}{2}\cos y+i \frac{e^x +e^{-x}}{2}\sin y
= \sinh x \cos y + i \cosh x \sin y$$$$\sinh (x-iy) = \frac{e^{x-iy}-e^{-x+iy}}{2} \\
= \sinh x \cos y – i \cosh x \sin y$$$$\cosh (x+iy)= \frac{e^{x+iy}+e^{-x-iy}}{2} \\
=\frac{e^x e^{iy} +e^{-x}e^{-iy}}{2}\\
=\frac{e^x (\cos y + i \sin y)+e^{-x}(\cos y -i \sin y)}{2}\\
=\frac{(e^x +e^{-x})\cos y +i(e^x -e^{-x})\sin y}{2}\\
=\frac{e^x +e^{-x}}{2}\cos y+i \frac{e^x -e^{-x}}{2}\sin y\\
= \cosh x\cos y + i \sinh x \sin y$$$$\cosh (x-iy)= \frac{e^{x-iy}+e^{-x+iy}}{2} \\
= \cosh x\cos y – i \sinh x \sin y$$$$\tanh(x+iy)= \frac{\sinh (x+iy)}{\cosh (x+iy)}\\
=\frac{\sinh x \cos y + i \cosh x \sin y}{\cosh x\cos y + i \sinh x \sin y}\\
=\frac{\tanh x + i\tan y}{1+i\tanh x \tan y}$$\(\tan \)は奇関数より
$$\tanh(x-iy)=\frac{\tanh x – i\tan y}{1-i\tanh x \tan y}$$
双曲線関数の定義域を複素数に広げると、
三角関数と双曲線関数の積を足した式になります。
三角関数の定義域を虚数にすることで
双曲線関数とのつながりがあることがわかるわ
極限値も同じになります。
この式も成り立ちます。
$$\lim_{x\to 0}\frac{\sinh x}{x}=1$$
三角関数で出てきた極限
$$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}=1$$
これと同じ値となります。
逆双曲線関数
双曲線関数の逆関数である「逆双曲線関数」というのもあります。
\(\sinh^{-1}, \cosh^{-1}, \tanh^{-1} \)と表記します。
-1乗(逆数)ではないことに注意です。
\( \sinh^{-1} x = \ln \left( x + \sqrt{x^2 + 1} \right) \)
\( \cosh^{-1} x = \ln \left( x \pm \sqrt{x^2 – 1} \right) \)
\(\displaystyle \tanh^{-1} x = \frac{1}{2} \ln \left( \frac{1 + x}{1 – x} \right) \)
双曲線関数から着想を得て、制作されたと推測される入試問題
双曲線関数という言葉は出ないですが
そこから着想された問題が出題されたことがあります。
(2)が、面倒ね
まとめ
双曲線関数を定義することで
三角関数との性質がかなり酷似していることが分かります。
ただし、符号が異なる部分もあるので、
そこだけは間違えないように注意しましょう。
三角関数に虚数を代入すると双曲線関数になるのも興味深いです。